エッセイ「大事な何か」 第2章 芸術 第2項 才能

< ヒーロー >

 

 J・P・パパン、彼のサッカーほど感動的なものはない。
彼はほとんどDFにクリアされそうな、今まさにDFが蹴ろうとしている低いセンタリングに、頭から滑り込んでゴールしたりする。
ただ後から前線にフィードしただけの、とてもセンタリングとは言えないクロスボールに、ダイレクトでシュートを放ち決めてしまったりする。
その瞬間、周りは「一体何が起こったのか」と唖然とさせられてしまう。


 彼のようなプレーはなかなか観られない。
普通そんな可能性の低いプレーは切り捨てられちゃうし、スター選手ならそんな無茶をせずとも華麗なるゴールを演出できるからだ。
しかしパパンは、自分に訪れた全ての局面に、常に全力で臨む。
普段のたゆまぬ努力でその可能性を極限まで高め、そのわずかな一瞬に力を出し切れるように、全精神を集中する。
そして…、やがて彼は、その不可能を可能にしてしまうのだ。



 乗っちゃダメだって…(^^;

 

 彼の魅力は、ただがむしゃらに頑張っている、というのでない。
もちろんその姿勢・勇気は胸を熱くさせずにはいられない。
だが、何より心に残るのは−彼がその一瞬、自分の力を完全に発揮すること−
その瞬間、自分を超えてしまう、ということ。
その神秘的なる光景が、パパンのプレーが心をうって止まない理由なのだ。







 パパンを思うと「人がどう生きたらいいか」感じられたような気になる。
彼は天才ではない、彼より才能の豊かな選手はいくらでもいる。
だが、それは何より心を動かすのだ、何より「これだ」と思わせるのだ。
才能如何に関わらず、自分の力を完全に出せるように目指す。
もし「心・技・体」を極められれば、「これだ」と思わせる創造を現出できる。
それこそが、心を真の満足に近づけるカギではなかろうか…。


 パパンはこの度のフランスW杯の代表メンバーではない。
彼が優勝の称賛の中に入ってないのが残念でならない。
そして最近ついに、彼が引退したことを耳にしてしまった。
でも、彼のそのプレーは少しも色褪せることなく、心の中で輝き続ける。
ジャン・ピエール・パパン、彼は僕にとって永遠のヒーローなのだ。



  98/9/10作成 12/19改訂 99/5/31改訂

ぜひ一言! アンケート

 

Copyright © 1998-2000 Arty